代表さんと鯖目は、『時計のない世界』で生まれ育ちました。
代表さんはその頃、「コール」という名前でとある組織に所属していました。
その組織とは「人間の数を調整する」ことを目的とした組織で、
ありていに言えば殺し屋集団でした。
コールは、組織の最もしたっぱに近い位置で
毎日のように殺しの仕事をしていました。
鯖目は、空生まれの人間として
空を引っぱる仕事をしていました。
鯖目は空が好きで、地上が好きでした。
小さい頃から地上に強く憧れていました。
地上に降りてもよい年齢になった鯖目は、
地上に降りて、殺し屋の男コール――後の"代表さん"と出会うことになります。
『時計のない世界』の空には、
時間を進める仕事をする人間たちがいました。
彼ら空生まれの人間にとって、
地上の空気や景色は穢れでした。
しかし、鯖目は小さい頃から地上が大好きでした。
毎日、空を引っぱる仕事が終われば地上を眺めていました。
まわりの人間たちは、そんな鯖目を見て笑ったり、ばかにしたりしていました。
鯖目に空の引っぱり方を教えた師匠は、
そんな鯖目をいつも宥めていました。
鯖目は、はやく17歳になりたいと思いました。
17歳になることが、空生まれが地上に降りてもよい条件だからです。
空生まれが地上に降りると、
目や髪の色が濁りました。
空生まれが地上人と言葉を交わすと、
声が低くなりました。
だから、多くの空生まれの人間は
すすんで地上に降りたいなどと考えませんでした。
けれど、鯖目にそんなことは
ちっとも関係ありませんでした。
鯖目が初めて地上に降りた日、
空に帰ろうとした鯖目は路地裏に怪しい影を見つけました。
それはひとりの殺し屋と、ひとつの死体でした。
空生まれが地上に降りると、背が急に伸びることがあります。
重力に引っぱられるからです。
鯖目の師匠は、名を石狩夜(いしかりや)と言いました。
生まれたばかりの鯖目を拾い、育て、空の引っぱり方を教えました。
地上に夢中で友達の少なかった鯖目を、師匠はいつも心配していました。